フランスの片隅から

フランスで暮らす日本人の徒然日記

フランスの言語とは何か

フランスという国でフランス語が話されていることは皆さんよくご存知でしょう。しかしこのフランス語、自然と人々に広まった言語ではありません。元々フランス人というのは国内の各地域ごとに多種多様な言語を話していたところを政府によってフランス語の使用が全国民に強制された結果、現在の共通語となるに至ったのです。それも太古の話ではなく、一般市民に強制され始めたのは18世紀終盤に起こったフランス革命(1789年)以降ですから、今からほんの二百数十年前です。

言葉としての変遷はあるにしろその千年前、8世紀の平安時代に遡っても日本で広く使われていた言葉が日本語であると知っている日本人からすると、一体それはどういうことかと思うかもしれません。さらに言うと、フランス革命直後の1790年にグレゴワール師 (Henri Grégoire,1750-1831) という人が言語に関する全国調査をしたのですが、この時点でフランス語を話すフランス人は10人に1人で、4人に1人はフランス語が何なのか知らなかったことがわかっています。つまり、その当時は9割のフランス人がてんでバラバラな「母語」を話していたわけです。それはラテン語でも英語でもドイツ語でもスペイン語でもありません。「地域言語(langue régionale)」と呼ばれるものです。

この地域言語、フランス政府の言語政策により迫害を受けながらもなんとか生きながらえ、現在でも約75種類の言葉がフランス各地域で使われています。

f:id:minamifrance:20240522233412j:imagewww.franceculture.frより

バスク語ブルトン語、オクシタン語、カタラン語、コルシカ語あたりは聞いたことがある方もいるかも知れませんね。

【フランスにおける言語政策の主な流れ】

813年: トゥール公会議において司祭が現地語(地域言語)で説教することが奨励される

842年:現存最古のフランス語文書であるストラスブールの誓約が作成される

12世紀末、パリ方言が標準とされ、14-16世紀にはフランス語が公式文書で使用される

1539年:ヴィレル=コトレの勅令によりフランス語が公式言語と認められる

1789年:フランス革命でフランス語が国家の言語であると宣言される

1881年、1882年:フェリー法により初等教育が無償・義務・世俗化され、一般にフランス語教育が普及する

1951年:ディクソンヌ法により地域言語の学校教育内での学習が認められる

20世紀中盤の言語政策転換によりフランスではバイリンガル教育が許可され、現在では小学校から高校まで(地域によっては幼稚園から)、各地の地域言語が学校教育の中で教えられています。地域言語が主言語で、加えてフランス語も教えられているなんていう学校もあるようです。フランスの地域言語が貴重な文化遺産であることはUNESCOによっても認められおり、各地では行政をはじめ民間も含む様々な機関で地域言語の普及活動が行われています。

とは言っても、フランスにおいてフランス語が共通語としてあらゆる場面で最も重要な言語であり続けるのは、今も今後も変わらないでしょう。