フランスの片隅から

フランスで暮らす日本人の徒然日記

ステレオタイプの人種差別とは-Petit nègre(小さな黒人)とRedskin(赤い肌)-

差別が法律で禁止されており罰則もあるフランス。フランスの国立大学の言語学部に通って授業を受けるなかで、「差別」をテーマにした講義を複数受講しました。それぞれ講義名はフランス文化やフランス文学、民俗学といったところなので特に自ら率先して「差別」を学ぶために受講したわけではありません。つまり社会や文化の中で差別が深刻に受け取られ、根深い社会問題として、そして過去の過ちを再度犯さないために、当然のように教育の現場で取り上げらている結果です。この密接感が日本にはなかったな、と思います。

このような環境で得た見識の一つが、Petit nègre(小さな黒人)。Wikipediaではフランス語ページしかなかったので、日本人で知っている人はあまり多くないのかもしれません。ただしフランスでは有名な事例で、私の夫(ごく一般人)に尋ねてもすぐさまその言葉は差別の文脈のものと回答してくれました。

Petit nègre

白い歯を見せて笑う黒人が美味しそうに甘いものを食べている商品パッケージ。彼は「y'a bon」と言っていますが、これは正しいフランス語ではありません。フランス語では「C'est bon」、日本語では「おいしいね」といったニュアンスです。

フランスが過去に行ってきたアフリカでの植民地政策のなかで黒人が元々話していた彼らの母語は低俗とされ、言語政策によりフランス語が教えられました。しかし同時に彼ら黒人が話すフランス語は「複雑な言語を自然かつ合理的に単純化したもの」であり、それを話す黒人は下等の人間であるとも見なされました。それがPetit nègre、プチネーグルです。
この文脈における上記の商品パッケージ。幼稚な表情でステレオタイプ化された黒人がPetit nègreを話すイラストは、白人によって作り上げられた黒人の単一化されたイメージです。黒人と言っても実際にはたくさんのルーツがあり、母語も文化も表情だってさまざまです。当然、彼らは幼稚でさえありません。これがBANANIAというココア飲料のパッケージに使用され、のちに黒人差別を象徴するイメージだと批判され変更されました。

ここで出てきた「ステレオタイプ」という言葉、日本人のなかで人種差別とすぐに結びつく人がどれだけいるでしょうか?よくよく考えてみたら、例えば第二次世界大戦中から戦後にかけて頻繁に表現されたアメリカ人の日本人に対するイメージ(出っ歯のサル顔)などは非常に差別的です。このイメージは戦時中のアメリカで、敵対国日本に対する憎しみを煽るプロバガンダとして利用されました。
現代においても、実際の日本人の顔つきや表情の多様性を無視して一律に吊目に描かれたキャラクターはまだまだ見かけますが、正直不快ですよね。これがステレオタイプの差別です。


日本人にあまり馴染みのない差別としてもう一つ挙げられるのはネイティブアメリカンを指す侮辱的な言葉、Redskin(赤い肌)です。長い歴史のなかで根深い人種差別を重ねてきたアメリカにおいて、先住民族を指してRedskinと言ったり赤い肌でイラストを制作したりすることは現代では差別的だと捉えられています。一方で赤い肌のネイティブアメリカンをモチーフにしてきたアメリカのスポーツチームは複数ありますが、NFLレッドスキンズMLBインディアンスは長年の批判を受けてチーム名やロゴを変更するに至りました。(インディアンという名称も差別にあたるため使用するべきではないとされています)

www.afpbb.com

www.bbc.com

加えて、フランス及びアフリカにおけるPetit nègre(小さな黒人)と同様に、アメリ先住民族が使っていた言葉にもステレオタイプ的差別があります。それが「ハオ(How)」です。もともとはヨーロッパから来た入植者が使う英語のHowを挨拶だと誤って認識した先住民族が使い始めたとも言われていますが、20世紀初頭の映画やテレビ番組ではネイティブアメリカンが「ハオ」と挨拶する場面が表現の手段として頻繁に描かれました。これらのメディアはネイティブアメリカンの多様な文化や言語を理解しない視聴者に対して、誤ったステレオタイプを植え付けるという結果を招きました。
現在、多くのネイティブアメリカンのコミュニティや権利擁護団体が自分たちの文化や歴史が正確に理解され尊重されることを求めるなかで、ステレオタイプな表現が過去の人種差別や文化の抑圧を思い起こさせるものであり、そのような表現を避けるよう訴えています。

日本で暮らしているとなかなか身近には感じ難い、世界の人種差別。言葉やイメージのステレオタイプ自体が差別と見做されるのは、その裏に長きにわたる深刻な人種差別の歴史があることもよく理解しておきたいです。